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「鼠径ヘルニア」とは?

(外科 斉藤 誠)

鼠径ヘルニアとはどのような状態か?

「ヘルニア」とは、体の組織が本来あるべき正しい位置からはみ出した状態をいいます。鼠径ヘルニアとは、もともとお腹の中にある臓器(腸の一部など)が鼠径(大腿の付け根)部の筋膜の間から皮膚の下に出てくる病気です。一般に「脱腸」と呼ばれています。

初期症状は、立った時とかお腹に力を入れた時に鼠径部の皮膚の下に腹膜や腸の一部などが出てきて柔らかいはれができますが、普通は指で押さえると引っ込みます。
はれが急に硬くなったり、膨れた部分が押さえても引っ込まなくなることがあり、お腹が痛くなったり吐いたりします。これをヘルニアのカントン(嵌頓)といい、急いで手術をしなければ、命にかかわることになります。

原因は?

鼠径部にはお腹と外をつなぐ筒状の管(鼠径管)があり、男性では睾丸へ行く血管や精管(精子を運ぶ管)が、女性では子宮を支える靱帯が通っています。加齢により身体の組織が弱くなる(筋肉が衰えてくる)と鼠径管が緩み、お腹に力を入れた時などに、出来た入り口の隙間から腸の一部や内臓の脂肪組織が出てくるようになるのです。

どの世代に多いのか?

40代以上(特に60歳前後)の男性に多く起こる傾向があります。男性の場合、鼠径管のサイズが太いため鼠径ヘルニアになりやすいといわれています。また、発生に職業が関係していることも指摘されています。腹圧のかかる製造業や立ち仕事に従事する人に多く見られ、その他に便秘ぎみでトイレで力んだりする人、前立腺肥大で排尿時に力む人、喘息や風邪などで咳をよくする人なども要注意です。内臓脂肪が多くお腹が出た人や、妊婦の方なども腹圧が上がり、鼠径ヘルニアになりやすいといわれています。また、原因ははっきりしませんが喫煙もその一つとされています。

最近鼠径ヘルニアの発症例は多いのか?

日本では鼠径ヘルニアで医療機関を受診している患者さんは約14万人いると推定されています。メタボリックシンドロームの原因といわれる内臓脂肪型肥満や、前立腺肥大が原因(既述)であることから、高齢化が進むにつれてその数は間違いなく増加しています。受診されていない人を含めるとさらに多くの方が発症していると思われます。当院でも手術件数は年々増加傾向にあり、昨年1年間は約70例の手術を行いました。
米国では鼠径ヘルニアで受診する人が年間80万人もいるといわれ、専門の外科医がいるほど一般的な病気です。日本では14万人と推定されていますが、多忙のため我慢していたり、「恥ずかしい病気」のイメージがいまだにあって、受診を渋っている潜在的な患者さまもかなり多いと推定されます。もし、ご自身の症状が上記に当てはまる場合は、一度、外科を受診しましょう。

具体的にどう治療していくのか?

ヘルニアは組織そのものが弱くなってすきまが広がってしまったために起こるので、薬を飲んだり筋肉を鍛えるトレーニングをしたりしても治りません。2015年に日本ヘルニア学会からガイドラインが発行され、「成人の鼠径ヘルニアに自然治癒はなく、軽症状の場合でも治療の原則は手術である」とされています。

鼠径ヘルニアの手術とは?

手術法には、すきまを縫い縮める方法や人工補強材などですきまを補強する方法などがあります。

人工補強材を用いる方法として以下の2つが行われています。

★ 患部を直接切開して、体の表面からヘルニア修復を行う方法(主に開腹して行います)

★ 患部とは離れた部位からアプローチして、ヘルニア修復を行う方法
  (主に腹腔鏡を使用して行います)

腹腔鏡下手術はお腹に小さな穴を3ヵ所程度あけ、そのうちの1つの穴から腹腔鏡を入れてお腹の中を観察しながらヘルニアの場所を見つけ、別の穴から入れた手術器具を外科医が操作し手術します。ヘルニアが左右の2ケ所にあっても同じ傷で同時に治療できる利点があります。

当院では、直接切開法と腔鏡下法を患者さまのご希望を伺いながら病態に応じて選択いたします。

直接切開法と腹腔鏡下法の比較は以下をご参照ください。

直接切開法腹腔鏡下法
約4~5 cm 1か所約1㎝ 2か所
30~40分程度手術時間1時間~2時間
腰椎麻酔または全身麻酔麻酔全身麻酔
54件
52件
当院手術件数
2015年
2016年
5件
16件

鼠径ヘルニアの手術費用は?

手術の方法や手術を受けられる患者さんの年齢によって違いがあります。

① 70歳未満(入院 4泊5日の場合)←入院日数は病院によって違いがありますが、当院での平均的な入院日数で比較しています。

70歳未満の方には、“高額療養費制度”が適応されます。
月初めから月終わりまでに支払った医療費が一定額を超えた場合、その超えた額を国が支給して
くれる制度です。ただし、ご自身での申請が必要です。
限度額は前年の所得によって決められます。
また、同じ月であれば、複数の医療機関での自己負担、同じ世帯の自己負担額も合算できます。
事前に申請し、認定書が発行されると、医療機関での支払いは限度額までで済みます。
時間が無く、事後申請となった場合では、窓口で一旦自己負担額を支払うことになりますが、後日
限度額以上にお支払いいただいた額が払い戻されます。
入院治療では自己負担金(医療費)の他に食事療養費が日数分とベッド代が必要になります。
この自己負担金が高額療養費制度によって減額されることがある金額です。

自己負担金(医療費)食事療養費差額ベッド
直接切開法約 73,000円1,380円/日問い合わせください
腹腔鏡下法約 150,000円
直接切開法:腰椎麻酔で行った場合  腹腔鏡下法:全身麻酔で行った場合 で計算

② 70歳以(入院4泊5日の場合)
70歳以上の方には高額療養費制度は適応されません。(3割負担の方は除く)
代わりに高齢受給者証をお持ちですので、その負担割合によって医療費が決まってきます。

★ 3割負担の方の場合

自己負担金(医療費)食事療養費差額ベッド
直接切開法約 73,000円1,380円/日問い合わせください
腹腔鏡下法約 150,000円
直接切開法:腰椎麻酔で行った場合  腹腔鏡下法:全身麻酔で行った場合 で計算

★ 2割負担の方の場合

自己負担金(医療費)食事療養費差額ベッド
直接切開法約 50,000円1,380円/日問い合わせください
腹腔鏡下法約 57,600円
直接切開法:腰椎麻酔で行った場合  腹腔鏡下法:全身麻酔で行った場合 で計算

★ 1割負担の方の場合

自己負担金(医療費)食事療養費差額ベッド
直接切開法約 25,000円1,380円/日問い合わせください
腹腔鏡下法約 50,000円
直接切開法:腰椎麻酔で行った場合  腹腔鏡下法:全身麻酔で行った場合 で計算

患者さんの立場で、注意すべき点は?

初めは特に痛みを感じないので鼠径ヘルニアだと気付かない人もいます。しかし次第に小腸などの臓器が出てくるので、不快感や痛みを伴って徐々に日常生活に支障が出てきます。

★ 初期の鼠径ヘルニアの症状として

  • 押すと元に戻る柔らかい膨らみ
  • 突っ張り感
  • 不快感や違和感
  • 引っ張られる感覚

初期症状の段階で病院へ行きましょう!

ヘルニアの程度が進むと、手で押さえても元に戻らなくなり、お腹に強い痛みや吐き気を感じるようになります。膨らんだ部分が根本でしめつけられ、元に戻らなくなった「嵌頓」と言う状態で、すぐに治療を受ける必要があります。また長期間放置すると、癒着の影響で手術の難易度が上がることもあります。このような状態になる前に病院に行き、「外科」の医師の診察を受けるようにしましょう。各医療機関によって治療方法も少しずつ異なっていますので、担当医と相談しながら手術を決められると良いと思います。

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